第04回 パリ入城

P1000385ユーロスターの初体験
今回の旅では最初ロンドンに5泊滞在したが、最初の日は夕刻ホテルに入り、最後の日は昼前にはパリに向かったので、あっという間の6日間であった。20年以上も前にロンドンに3年ほど暮らした時には、終日芝生の上に寝転んで遥か日本のことに思いを馳せては感傷的になった44歳の僕がいたわけだが、今回22年後には元気な66歳の僕が再訪出来たことが大変感慨深いことであった。同時にこのような旅が実現できたことに対しては、今までお世話になった数えきれない日英両国の友人や家族に改めて感謝の気持ちがこみ上げてきた。実質4日間と短かい時間であったが、ロンドンを再訪できて本当によかったと思った。日本の次にイギリスが大好きである。「一期一会」ではないが、人間はその時その時がもう二度と来ない時間だと思えば、自ずと「今その時を一生懸命に生きる」ことの大切さを感じるのであろう。この心構えを死ぬまで忘れないようにしたい。そんな意味で後悔のないロンドン滞在であった。
さて、今回ロンドンからパリに移動するに当たり、どうしても初体験したいことがあった。それはドーバー海峡の海底トンネルを列車(ユーロスター)でヨーロッパ大陸に渡ることである。飛行機以外ではフェリーで1回だけロンドン・パリを往復したことがあったが、ユーロトンネル自体が、僕が帰国した前年1994年末にやっと開業したので、体験することができないでいた。ロンドン~パリが約500kmだというので日本では東京~京都に相当する距離である。ユーロ圏の2大都市を、列車に乗ったまま速く且つ快適に移動したいというニーズは、ユーロ圏が構築される前のかなり昔から強かったのであろう。時速300km出る列車では2時間15分とは確かにあっという間である。しかもこれから紹介する食事を戴きながらの旅は、美人のスチュワーデス(搭乗員は女性ばかりであった)の心遣いとともに中々快適であった。
ユーロスターに初めて乗るユーロ圏外の僕は、当然パスポートコントロールもあろうかと予測して、ロンドン東のセント・パンクラス駅(隣接するキングクロス駅はロンドン北東にあるケンブリッジさらにはスコットランド方面行きの始発駅)に出発1時間半前の朝10時に着いた。さらに今回の旅ではコスト面で、ロンドン郊外西はずれのヒースロー空港から3つ目の駅近くのビジネスホテルに泊まっていたので、飛行機でパリに行くのに比してホテルを朝食抜きで2時間も早く出発する羽目になった。飛行機ならばパリに悠々到着している計算になる。何事も初体験の成功を願えばやむを得ないことであろうが、詰まる所ご老体は乗車前に疲れ切って、セントパンクラス駅の列車入線待ちホームのベンチで、居眠りしてしまい夢の中だけでは一足先にパリに到着していたのには、我ながら笑ってしまった。これからパリのアパートで40日間滞在する計画の66歳海外独り旅は、果たして緊張がどこまで持続できるのか甚だ不安になった。(実はセントパンクラス駅パスポートコントロールのボディーチェック時に脱いで駕籠に入れたブレザーを、受け取るのを忘れてゲートを通過して5分ほど経ってから気付く有様で、とりわけパリ到着後€(ユーロ)に交換しようと多めの£(ポンド)札を突っ込んだ財布をブレザーの内ポケットに入れていたので冷や汗ものだった。時差9時間の海外旅では現地到着後5日目くらいからやっと現地の生活リズムに慣れるものであるが、それは若い頃の話であることを実感した)。それにしても66歳の一人旅の前途たるや、日本を立つ時に覚悟もしてチャレンジ精神で奮い立ったものの、現実の自分を知って今後の多事多難を予感したのである。
さて座席に座るまでに色々あったが、奮発した1stクラスの進行方向1人席に無事収まることができた。念願叶った自分の姿をカメラで自撮りとやらしたら、いつも苦虫をすり潰した顔をしているのが、自然に微笑んだ顔をしてをしていたのには意外でもあったが、人間ってこんなものだと思った次第である。トンネル部分の走行が半分以上を占めるユーロスターの旅は窓外の景色を楽しむというには程遠かった。日本の新幹線も同様である。旅情を愉しむには各駅停車がいい。時間の余裕があるフランスでの旅に期待したい。しかし一方でこれも予め期待をしていたことだが、唯一救われたのがフルコース仕立てのフランス料理と相性ピッタリのワインの昼食であった。さらに美人で気立ての良いスチュワーデスも1車両4名ほどの体制で、男性独り旅を気遣ってくれたのでもあろうが、彼女たちとゆったり会話を楽しめた。(今思うに66歳の日本人がビジネス目的でなく独り乗っているのも奇異な眺めかもしれない。まずこの歳の外国の乗客は夫婦連れが多い。僕を見て可哀想に遥々一人旅かと思ったのであろう、間違いない)。食事も終わってパリ到着15分ほど前に、僕は「大変美味しい食事でした。ワインも最高で是非日本へのお土産に持って帰りたいが1本だけ頂けませんか?」と丁寧に頼んだのである、返事は「お安い御用よ。御席で待っていてね。」とウインクしたのである。そしていかにも目立たない紙袋にそっと包んで、赤・白に加えて食事には供されなかったロゼのワインも一緒にした3本セットで席まで持ってきてくれたのである。不可能だがその時の顔こそカメラで自撮りしたかった。多少だらしないけど大変嬉しそうな顔をしていたのではないだろうか。女性に優しくされた時に、素直に感謝の言葉や行動が出てこない古いタイプの日本男児の僕は辛かった。兎に角親切に最高級のおもてなしをしてくれたユーロスターでの食事を思い出をしては、今もほくそ笑んでいる。件のワインは道中少々重たかったが、帰国後「ユーロスター車内の食事に供されたワインの3本セットだから貴重だぞ」とよくよく説明を加えて娘夫婦にあげた。
結論。ユーロスターによる移動はお勧めである。ただし、1.食事が出そうな時間帯の列車を選ぶ。 2.1stクラスの一人席を確保する。 3.スチュワーデスにはこちらから話しかけてみる。この3点を事前に留意されたし。初めてのユーロスター乗車は、所要時間としては飛行機の3倍ほど掛かったが、なかなか忘れ難いパリへの入城方法であった。
最後になったが、本文冒頭の写真はユーロスター車内風景である。右側に写っている向い席の4人連れは、女性1人を含む50前後の同窓生か幼馴染だろうか、持参したスコッチ・ウイスキーボトルを空けて、僕には聞きなれたクイーンズ・イングリッシュでパリに着くまでの2時間楽しそうに喋りっぱなしのグループだった。人生後半にあんな旅ができるのもいいな。長崎の中学校時代の同窓会メンバーを思い出した。

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